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事例紹介

2012年4月3日

株式会社有斐閣様

株式会社有斐閣様では、電子書籍ビジネスの将来を見据えた第一歩として、『AtlasBase』の『Maia®』を活用した定額制電子書籍選集閲覧サービス『有斐閣YDC1000』を構築し、サービスを開始した。

Interview

鈴木 道典氏

株式会社有斐閣
取締役
電子メディア開発室長
吉清 恵一

日本ユニシス株式会社
サービスインダストリー事業部
ビジネス一部長
大河原 雅弘

日本ユニシス株式会社
サービスインダストリー事業部
ビジネス二部 第三プロジェクト
主任

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USER PROFILE

創業:1877年(明治10年)
資本金:4億5,000万円
従業員数:100名
所在地:東京都千代田区神田神保町2丁目17番地
事業内容:出版(社会科学・人文科学関係の書籍、雑誌、六法、辞典など)
本事例に掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。なお、事例の掲載内容はお客さまにご了解いただいておりますが、システムの機密事項に言及するような内容については、当社では、ご質問をお受けできませんのでご了解ください。

【開発の背景】電子書籍の可能性を拡げるビジネスモデルとして業界で高く評価された『叡智の海』構想の実現に向けて

  • 時代の流れを的確に捉え、電子書籍事業にもいち早く進出
1877年(明治10年)の創業当初から、法律書を中心とした社会科学書を出版してきた有斐閣様。良質なコンテンツを良質な読者に届けることを企業コンセプトに、良書と評される書籍を数多く出版し、社会科学領域で高い知名度を獲得している。

同社は、時代の変化にも柔軟に対応し、事業ドメインを次々に拡大してきた。電子書籍事業の開始は1999年と早く、DVDによる法律雑誌や辞書などを発行した。その後も『ジュリストDVD』『判例百選DVD』など、蓄積した資産をデジタル媒体で刊行。2004年には重要判例検索システム『Vpass(Valuable Precedents Access Service System)®』を開発し、オンラインでのコンテンツサービスも開始している。これら電子書籍事業は、すべて同社の重要な収益の柱となっている。
鈴木 道典氏の写真
そして2008年には、電子ペーパーコンソーシアム主催の電子ペーパーアイデアコンテストで提案した『叡智の海』サイト構想が、優秀賞(ニュートン賞)を獲得した。
  • 『叡智の海』実現に向け、両社の思惑が一致
『叡智の海』構想とは、専門書や学術書を電子化し、著者と編集者の叡智が込められている各書籍の引用文献、参考文献、根拠資料、目次、索引をデータベースとして検索する仕組みを構築し、関係する書籍を連携させることで、利用者が簡単に先人の叡智や現代の叡智に触れられるサイトの実現をめざしたビジネスモデルだ。

『叡智の海』は、同社だけではなく、さまざまな出版社の書籍が連携することで、利用者の利便性が高まり、サイトの価値が向上する。業界全体が協力することで電子書籍の可能性を顕在化できることから、『叡智の海』構想は、電子ペーパーや電子出版の可能性に注目する出版社や企業から高く評価された。

「そこで、電子書籍関連の講演を依頼されるたびに『叡智の海』構想を紹介し、一緒に実現しようと呼びかけました」と、取締役 電子メディア開発室長の鈴木道典氏は語る。

だが、サイトが実在していれば参加を検討するという声は多くあったものの、ゼロからサイトを構築することに対し、色よい返事は得られなかった。

「こうした業界の反応から、まずはモデルサイトをつくることが必要だと考え、2010年に『叡智の海』実現に向けた新たな電子書籍事業を検討していたところ、5月に日本ユニシスの営業が弊社を訪れたのです」(鈴木氏)

日本ユニシスは、電子書籍元年といわれる2010年初頭から、デジタルコンテンツを軸にした新たなビジネスの検討を開始。その第一弾として、クラウド型電子図書館システムを出版関連各社に紹介する活動を展開していた。同社を訪れたのも、その一環だった。

「電子図書館システムの話を聞いてみると、とても使いやすいシステムだと感じ、これをベースに『叡智の海』を実現しようと考えました。そして2010年7月、会社に対して『叡智の海』実現に向けた会員制電子書籍サービスの実証実験を提案。日本ユニシスにも“やりましょう”と、返事をしました」(鈴木氏)

『叡智の海』を実現したい同社と、デジタルコンテンツの世界で新たなビジネスを展開したい日本ユニシス。両社の想いが、このとき一致した。

【開発の背景】電子書籍の可能性を拡げるビジネスモデルとして業界で高く評価された『叡智の海』構想の実現に向けて

  • 「共同事業」パートナーとして、互いに知恵を絞りあう
鈴木氏をリーダーとする同社と日本ユニシスによるプロジェクトは、2010年8月から電子図書館システムをベースに『叡智の海』実現への具体的な検討を開始した。ところが、電子図書館システムには機能の変更や追加に制限があったことから、『叡智の海』に必要な検索の仕組みや同時閲覧などの機能を実現するには、新規に構築する方が、より発展性のあるシステムになるという結論に至った。

その後、『叡智の海』構想の実現に向けて、両社の議論は白熱していった。そして2011年3月、日本ユニシスはシステムに加えて、新たに「共同事業型のビジネスモデル」を提案した。実は、日本ユニシスでは、従来の受託開発型ビジネスと並行し、パートナーとともに投資を行い、実現したサービスの売り上げを分配する『レベニューシェア型ビジネス』も推進していたのだ。
吉清 恵一の写真
「今回はこのスタイルが適していると思い、提案させてもらいました」と、日本ユニシスの吉清恵一は語る。

「他にも『叡智の海』に興味を持ったSIerはありましたが、日本ユニシスの提案を聞いてからは、他社の話を聞こうとは思いませんでした。それは、『叡智の海』実現への熱意をメンバー全員から感じたからです」と、鈴木氏。また、ソリューションが豊富で、商用サービスを手掛けた実績も多いことから、必ず実現してくれる期待もあったという。

「実際、新事業開発に慎重な役員もいるなかで、レベニューシェアの提案は、非常にありがたい提案でした」(鈴木氏)

さっそく鈴木氏は、日本ユニシスの提案を、社内の役員会にかけた。ところが、プロジェクト自体にGOサインは出なかった。コミックと恋愛小説以外は未成熟なままの電子書籍市場で、大規模な『叡智の海』を構築しても、十分な費用対効果は得られないと判断されたのだ。

だが、熱はまったく冷めなかったと、吉清は言う。

「鈴木室長のお話から、『叡智の海』により、研究者や実務者の仕事環境、さらには学生の勉強方法が、大きく、便利に改善されることがイメージできました。われわれは、その変化を日本ユニシスの技術でお手伝いできることに大きな意義を感じていた。ですから、有斐閣様のパートナーとして『叡智の海』を実現するために、メンバー全員で知恵を出し合いました」(吉清氏)
  • 豊富な実績に基づく的確な提案力と開発力でプロジェクトを推進
堅実な成長をめざすには、できるだけ初期コストを抑える必要がある。そこでプロジェクトは、同社の強みが発揮できる部分に機能を絞り、『叡智の海』を見据えた第一歩となる『スモールスタート』を検討していった。その結果、ICT環境は、初期投資を抑えながら、将来の機能拡張にも柔軟に対応できるよう、日本ユニシスの『U-Cloud IaaS』に決定。アプリケーション開発標準は、システム基盤『AtlasBase(アトラスベース)』(注1)の『Maia』(注2)を採用することにした。

「今回はサービスを早く立ち上げ、その後もサービス拡大にあわせて短期で機能拡張する必要があります。この点を考えると、MaiaはECサイトの構築実績が多く、安定しています。さらに、ECサイト構築に必要なソフト部品の開発ノウハウが豊富で開発効率を高めることができます。このようにMaiaは、品質と効率の両面で本案件との親和性が高いと判断しました。また、OSS製品を使うので、コストを抑えられる点も考慮しました」と、今回の開発をリードした日本ユニシスのSE、大河原雅宏は語る。

このスモールスタートプランが役員会で了承され、2011年8月から詳細設計がスタートした。

吉清は当時を振り返って、「次々に提案できた最大の要因は、室長が決してギブアップしなかったからです」と言う。そして、「室長と一緒に悩み、考えることで、信頼関係が生まれたことも、大きな力になりました」
(注1)AtlasBase:
日本ユニシスのオープン系システム開発のノウハウと知財を体系化・標準化したシステム基盤。アプリケーションを開発するシステム共通機能領域、OSや基盤ソフトウェアの検証済みプロダクトセットを提供するインフラ領域、開発プロセスを網羅する各種ドキュメントを網羅して提供する。技術的な問題を支援する120人体制のスペシャリスト組織によって運用され、システム開発におけるリスク削減、品質向上、および安定稼働を実現する。
(注2)Maia:
AtlasBaseの中で、中小規模向けのJavaアプリケーション開発に適した開発フレームワーク。Struts、Spring Framework等の各種OSSをベースアーキテクチャとして採用して開発を推進。その過程でOSSのみでは不足する機能を独自に補完し、担保して、開発のプロセスを標準化することで、開発の品質と効率を高める。

【導入効果】約4カ月で、専門書検索の利便性を実現した定額制の電子書籍選集閲覧サービスサイトを構築

  • 専門書検索の利便性に特化した検索機能を実現
「レベニューシェアでスタートを切ったプロジェクトでは、われわれが一方的に希望を述べるのではなく、日本ユニシスのメンバーと一緒に、どういう仕様で、どういうサービスを提供することが、利用者にとってベストなのかを議論し、具体化していきました」と、鈴木氏は設計のプロセスを語る。

「とくに議論したのは、本システムの特長である検索機能でした」と、大河原。
専門書を利用する人たちにとって、どういった画面レイアウト、どのような手順で検索できるようにすると、調べやすいのか。また、どのような形でデータをもたせるとヒット率を高めることができるのか。検索機能については、かなりの時間を費やして議論し、提案したという。
大河原 雅宏の写真
そして2011年12月22日、『叡智の海』実現に向けた第一歩として、『有斐閣YDC1000』(注3)と名づけられた定額制電子書籍選集閲覧サービスがスタートした。当初は法律書に限定し、入手が困難で、手に入る場合も高価な絶版本や、昭和に刊行された同社の「古典」と呼ばれる良書を電子化して収載。大学教授などの研究者や、弁護士、企業の法務といった実務者が、研究や執筆、あるいは問題解決の糸口を調査したいときに利用してもらうことを目的とした。

検索機能については、専門書検索の利便性に特化。
「書誌検索にとどまらず、目次と索引を含めた検索機能により、利用者はかなり細かいところまで調べることができます。これは、われわれが思い描いていた理想に、ほぼ近い形です」と、鈴木氏は胸を張る。

利用は会員制。月額1,000円相当(年12,000円/予定)の定額で、すべての書籍が読み放題。インターネットを介し、24時間閲覧可能となっている。2012年サービス開始時点の収載点数は約350。2012年3月末まではプレオープン期間としてサービスを無償提供し、この間に書籍の追加、利用者から寄せられた意見・希望をシステムに反映してサイトの利便性を向上。2012年4月1日に正式オープンし、有償サービスを開始する予定になっている。
  • 2012年4月までに会員数2,000名を達成予定
『有斐閣YDC1000』の評判は、プレオープン直後からTwitterとブログで拡がった。とくに多くの話題を集めたのが、定額制で読み放題というサービスのスタイル。

「ある研究者がつぶやいていたのは、“研究者人生が40年間とすると、総額48万円で有斐閣の良書が全部読める。これは安い!”というものでした」(鈴木氏)。

一方、要望として多かったのは、コンテンツの充実。また、現在対応しているInternet Explorer(IE)以外のブラウザ対応を望む声も、多く寄せられている。

会員数は、2012年1月末時点で約500名。今後、加入促進に向けた新たな取り組みにより、4月に2,000名をめざしている。

(注3)『有斐閣YDC1000』:
YDCは、Yuhikaku Digital Contentsの頭文字。1000は、正式サービス開始当初のコンテンツ数予定が1,000点であることとともに、音が「選」とも通じ、多いことを表す「千」の意味も込められている。

【今後の展望】『有斐閣YDC1000』の機能を強化し、魅力を増すことで『叡智の海』構想の実現をめざす

  • 利用者、出版社、社内の3方向で機能を充実
鈴木氏は言う。
「当初の構想から考えると、いま実現している機能は100分の1程度。まずは『有斐閣YDC1000』として機能を充実させ、4〜5年後には『叡智の海』構想を実現させたいと思います」

機能充実の第一弾として、4月の正式オープンまでに「IE以外のブラウザでも閲覧できるようにするマルチブラウザ対応と、データをダウンロードしてオフラインでも閲覧できる機能を実現させたい」と、鈴木氏。さらに、複数の書籍を1画面に表示して比較・閲覧できる機能、複数の書籍から必要な箇所を取り出してオリジナル資料が作成・印刷できる機能も、早急に実現させたいと語る。
本社内の写真
「もう1つ、正式オープン時には、個人会員に加え、法人会員とも契約できる体制の整備も進めています」(鈴木氏)

同社と日本ユニシスでは、こうして得た収益を新たな投資に回し、次々に機能を充実。まずは収載した書籍と引用関係にある書籍をもつ出版社に参加を呼びかけ、専門書の総合連携プラットフォームとして利便性を高め、サイトの魅力向上に努めようとしている。そのために鈴木氏は、「コンテンツ管理のほか、著者に対する執筆料や著作権料の支払・管理など、電子書籍以外でもトータルな業務効率化に活用できる機能を『有斐閣YDC1000』のバックヤードに備え、他の出版社が参加したくなる仕組みも実現したいと考えています」

また、同社内では『有斐閣YDC1000』を利用することで過去の書籍内容がデスク上で確認できるため、新たな書籍の企画支援ツールとしての活用も始まっているという。

「このほか、社内では今後、『有斐閣YDC1000』を販売促進用のプラットフォームとして機能の充実を図り、大学教授向けに新刊を紹介するサイトとして機能させ、教材への採用を促す営業支援に利用したり、書籍のオンライン販売、デジタル化した書籍の配信・販売サイトとしても活用していきたいと考えています」(鈴木氏)
  • 目標の達成を一緒にめざす良きパートナーとして
こうした機能拡充に向け、「パートナーとして一緒に頑張っていきましょう」という日本ユニシスの姿勢を、鈴木氏は高く評価し、大いに期待しているという。すでに同基盤の活用に向けて、日本ユニシスの営業が、『有斐閣YDC1000』の新たな利用法を企画して大学向けの新商品として提供検討するなど奔走。その発想力と行動力には目を見張るものがあり、一緒に行動している同社の営業に、とてもよい刺激を与えているという。

「これからも良きパートナーとして、SE、営業との連携を強化し、取り組むスピードを速め、1日でも早く目標を実現したいと思っています」(鈴木氏)

想いは、日本ユニシスも同じだ。日本ユニシスは新たな中期3カ年計画のなかで、従来の受託開発型をコアビジネスとして推進する一方、お客さまと一緒につくっていく「共創ビジネス」の強化も打ち出している。本プロジェクトは、共創ビジネスという新たなビジネススタイルを実現するものとして、社内でも注目されている。

「有斐閣様とは今後も戦略的パートナーとして信頼関係を高め、まずは『有斐閣YDC1000』を、いつ訪れてもドキドキするサイトにし、利用者の行動が、より素晴らしい方向に変化することに貢献したいと考えています。そして、こうした実績をあげることで、他の出版社の参加を促し、領域の拡大も図っていきたいと思います」(吉清)

事例のポイント

今回、有斐閣様では、電子書籍ビジネスの将来を見据えた第一歩として、『AtlasBase』の『Maia』を活用した定額制電子書籍選集閲覧サービス『有斐閣YDC1000』を構築し、サービスを開始した。そのポイントは以下の通り。
  • 専門書領域の電子書籍閲覧サービスを定額制読み放題で提供
    専門書領域の電子化を推進するため、まずは法律関係の絶版本や昭和の良書を電子化。研究者や実務者の使いやすさを実現し、研究や執筆の際に、いつでも利用できる定額制読み放題サービスの提供を開始した。
  • 市場の現状と将来を見据え、レベニューシェア&スモールスタートで着手
    リスクも収益もパートナーと共有するレベニューシェア型ビジネススタイルと、必要最小限の仕様で始めるスモールスタートで、初期投資を抑えながらビジネスを始め、いち早く市場の可能性にアプローチした。
  • 初期投資を抑え、将来の成長にも柔軟に対応できる『U-Cloud』を採用
    大きな成長が期待されている市場であることから、初期投資は抑えながら、どのような成長にも柔軟に対応できるU-Cloud IaasをICT環境に採用。
  • 高品質サービスを効率よく開発するためAtlasBaseのMaiaを採用
    ECサイトの構築実績が豊富で動作も安定しているMaiaを開発プラットフォームに採用することで、開発効率を向上。OSS製品を使うので、コスト低減にも貢献している。
システム概要図
システム概要図

*AtlasBase、Maia、U-Cloudは、日本ユニシス株式会社の登録商標です。

*その他記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。