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ERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)とは: Enabilityコラム

ネガワット取引もそのひとつ

ERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)とは

2019年9月17日

日本はインフラエネルギーの制度変革時期を迎えている

自然災害の増加や、電力自由化などを背景に、日本は電力とガスというエネルギーに関する制度の大きな変革期にあります。これまでは大規模かつ集中型の火力発電や水力発電、原子力発電のようなエネルギーを需要に合わせて供給を行うシステムが長期的に使用されてきましたが、時代が進み、地域や企業・家庭ごとにエネルギーの利用状況や仕組みが異なるようになりました。また、東日本大震災に伴う電力需給のひっ迫を契機に、従来の省エネ強化だけでなく、電力の需給バランスを意識したエネルギー管理の重要性が強く意識されるようになりました。

震災後、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入も大きく進みました。一方で、自然エネルギーは天候に左右され安定供給が難しい課題を抱えています。電力料金の削減やインバランス回避のために、各所の余剰電力や蓄電池の電力を調整し、電力を必要とする関連するサービスに供給するため、IoTを活用した仮想的な発電所の構想が立ち上がりました。

その中の一つにERABという電力エネルギーに関する新しい取組みがあります。ERABとはどのようなビジネスなのか、小売電気事業者にとってどのようなメリットがあるのか、関連する制度に関する用語も解説しながら詳しくみていきましょう。

ERABとは

「ERAB」とは「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」のことを指します。「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」というのは需要側(消費者)の所有する分散型エネルギーリソース(エネファームやエコキュート、HEMSなど)をアグリゲート(統合調整)して調整用エネルギーシステムとして活用できるようにする事業構想です。

各種エネルギー関連の共通整備ができるだけでなく、DRやVPPを活用し、取引先に対して、調整力、インバランス回避、電力料金削減出力抑制回避などの新産業が創出される事自体も大きなメリットの一つ。2015年に策定され、フォーラムなどを繰り返し、現在も改定や新しい事項の追加などが繰り返されています。

DRとは

ディマンド・リスポンス(DR)とは、需要家(消費者)側の余剰エネルギーを制御することで、電力需要パターンを変化させることです。
DRは需要制御のパターンによって、「下げDR(需要を抑制)」と「上げDR(需要を創出)」の2つに区分されます。例えば、下げDRなら、電気のピーク需要時に需要機器の出力を落として需要を減らします。上げDRなら再生可能エネルギーなどの余剰エネルギーを需要機器の稼働によって消費したり、蓄電池に充電したりします。

また、需要制御には電気料金設定によって需要を制御する「電力料金型」と需要家が業者と契約し、業者の要請に応じて需要の抑制をする「インセンティブ型」があります。
特にインセンティブ型の下げDRのことを「ネガワット取引」と呼んでいます。

VPPとは

バーチャル・パワー・プラント(VPP)とは、需要家(消費者)側の余剰エネルギー(エネルギーリソース)の他に、電力系統に直接接続されている発電設備、蓄電設備の保有者らが、エネルギーリソースを束ねて分散型エネルギー資源(DER)として制御することで、仮想的な発電所と同等の機能を提供するシステムです。

ERABは余剰エネルギーの統合・調整・制御を行うアグリゲーターがDERをIoTの活用でDR制御し、VPPを運用するビジネスモデルです。現在、小売電気事業者と需要家の契約による電力料金型DRはVPPから外されています。逆潮流についてはアグリゲーターとの契約内容でVPPに参加できます。

ベースラインとは

ERABのベースラインとは、DR要請をしなかった場合に想定される電力需要量を指します。ベースラインはDRによる需要制御量によって生み出されるDR報酬額に影響するため、その推計などに関する標準的な算出手法を確立することが重要です。

ベースラインの考え方

ベースラインは反応時間と持続時間の長短で妥当な値が異なるため、反応時間・持続時間が比較的長いDRと比較的短いDRとでそれぞれにベースラインを設定します。

比較的長いDRにおいて上げDR、下げDRにおけるベースラインの設定方法は同じ手法で計算されます。また、多くの場合に適合される「標準ベースライン」を基本としつつも、妥当でない場合には「代替ベースライン」を活用するなどの柔軟な対応が求められます。

ベースラインの設定方法

比較的短いDRの場合は事前・事後計測の考え方に基づいて、一定時間帯の平均値をベースラインと設定し、代替ベースラインは設定されません。

比較的長いDRの場合は、ベースラインテストを行った上で標準ベースラインを設定し基本的には運用を行います。ただし、テストの結果、標準ベースラインが妥当でないと判断される場合は、代替ベースラインなどを適用し、ベースラインを確定する必要があります。詳しくはガイドラインを参照ください。

ERABの具体例

ERABによるビジネスモデルとしては2017年4月よりネガワット取引が開始されています。また、今後、2020年の法的配送電分離を控え、容量市場や非化石価値取引市場など電力取引市場が活性化していく中で、ERABの果たす役割に期待がされています。ERABを活用した具体的な事例についてみていきましょう。

ネガワット取引とは

ネガワット取引とは、下げDRにより節約した電力価値を売買する取引です。アグリゲーターなどとの事前契約に基づき、電気のピーク需要時に節電を行うインセンティブ型下げDRの取引を指します。
アグリゲーターなどとの契約は事業者だけでなく一般家庭の需要家も参加でき、節電による余剰エネルギーに応じて報酬が得られます。

ネガワット取引には需要抑制量調達の主体の違いによって小売電気事業者による「類型1」と一般送配電事業者(系統運用者)による「類型2」に分けられます。類型1は小売電気事業者と直接計画値同時同量の達成を契約する「類型1の1」と電力料金型の小売電気事業者などと契約している需要家がアグリゲーターなどと個別に契約し、下げDRに参加する「類型1の2」にさらに分けられます。

ネガワット取引に参加することで需要家は電気料金の低減に加えて、下げDRに応じて報酬が得られるメリットがあります。また、自家発電設備やコジェネレーションシステム、蓄電池や電気自動車をより有効に活用できます。

V2Gとは

ヴィークル・トゥ・グリッド(V2G)は電気自動車のエネルギーをIoTの活用による高度なエネルギーマネジメント技術で遠隔統合・制御し、VPPとして機能させることで上げDRの事例として取り組まれています。例えば太陽光発電が供給過剰な場合に、上げDRを依頼し蓄電池などへの充電を行い、再生可能エネルギーの需要を創出します。これにより出力制御における再生可能エネルギーの抑制を行うことなく電力の需給バランスを維持することが可能になります。

系統安定化コストの削減

従来、電力を安定供給するためには、火力発電や揚水力発電など電力の系統安定化に多くのコストがかけられてきました。

しかし、一般家庭にも創電家電が多く導入され、太陽光発電や蓄電池などが多く販売設置されています。これまで固定価格買取制度(FIT制度)によって売電収入が見込めたものの、期間が切れることで売電から自家消費への流れが広まる中で、再度売電に協力してもらうことで、発電所の資本費を抑制することができ、低コストで系統安定化を図ることが期待されます。

特にこれまでは太陽光や風力は天候などの影響によって短時間で発電出力が急激に変動し、導入拡大に課題を残していました。ERABを活用することで上げDRが上手く運用されれば再生可能エネルギーを無駄なく利活用され、政府の目指す再生可能エネルギー割合44%の達成も近づきます。

これまでの改定について

ERABは検討会がいまだ継続されており、必要に応じて適宜各種ガイドラインの改定が発表されてきています。これまでの大きな改定はすでに3回実施されました。改訂内容についてそれぞれみていきましょう。

第一回目の改定事項

第一回の改定は2016年9月にERABの「ネガワット取引に関するガイドライン」においてでした。電気事業法の改正(第3弾)によって需要抑制量(ネガワット量)についても、発電した電力量と同様に、一般送配電事業者が行う電力量調整供給(インバランス供給)の対象と位置付けられました。

さらに、類型1の2におけるベースラインの在り方や、ネガワットにより生じる小売電気事業者とアグリゲーターの損益の不一致を調整するためのネガワット調整金を規定するための改定となりました。また、2017年中にネガワット取引市場を創設するとの総理発言がなされ、事業者間での取引ルールを策定することになりました。

第二回目の改定事項

第二回目の改定は2017年11月。主な改定事項は、DRに関わる事項の中でも、「上げDR」のベースライン設定方法や、類型2のネガワット調整金の規定行いました。また、サイバーセキュリティガイドラインも改定されました。

2017年4月にネガワット取引も開始され、相対契約からの移行に伴う市場の活性化が期待され、DRによる応札では100万kWが落札されました。これを受けてERABの用語の定義や関係性の整理が行われ、ERAB全体を対象とする「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン」として改訂が行われました。

第三回目の改定事項

2019年4月には三回目となる改定がありました。主にネガワット調整金の計算方法や、ネガワット取引における情報共有についてのことが明確にされています。ネガワット調整金の計算方法は一般電気事業者が調達する場合について基本となる計算方法が明示されました。
情報共有に関しては、DRによって需要家の電力量が制御された場合、ネガワット事業者(アグリゲーター)が小売電気事業者に共有すべき情報として、制御する電力量、制御の開始・終了時刻を追記しました。

ERABに参入し小売電気事業者も新しいビジネスチャンスをつかもう

ERABは需要家と発電事業者の余剰エネルギーを束ねて仮想的な発電所として電気の調整力やインバランス回避に活用するエネルギービジネスの総称です。
小売電気事業者としては、ERABから電力を買い付けるだけでなく、自らアグリゲーターとしてDR調整を行い、ネガワット事業者として新規参入することもできます。太陽光発電やエネファームなどFIT制度の期限が切れる需要家が増えてくる中で、余剰発電力が省エネからビジネスへと変わろうとしています。いまだ検討や改訂がなされるERABですが、新しいビジネスチャンスを逃さず、その動向を注視していきましょう。

重要ポイント
1.ERABはDR(余剰エネルギー)を束ねたVPP(仮想発電所)の制御活用による新しいエネルギービジネス
2.既にネガワット取引が開始され実績を積んでいる
3.小売電気事業者がネガワット事業者(アグリゲーター)になることも可
4.FIT制度が終了していく中で再生可能エネルギーの省エネからビジネスへのチャンスにERABが注目されている

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