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コラム|柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第13回

柿尾正之【かきお・まさゆき】

小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務を経て1986年4月、JADMA:公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。
おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年6月退任。
2016年12月 合同会社柿尾正之事務所 設立。現在、企業顧問、社外取締役の他、コンサルティング、講演、執筆等。

〔著書〕『通販~不況知らずの業界研究~』(共著:新潮社)等多数。
〔主な所属学会及び社会的活動等〕日本ダイレクトマーケティング学会理事
〔大学講師歴〕早稲田大学大学院商学研究科客員准教授、関西大学大学院商学研究科、上智大学経済学部、駒澤大学GMS学部、東京国際大学商学部、他多数。

柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第13回

2021年11月16日

今回は通販企業にとってのDX(デジタル・トランフォーメーション)の取組みについて考えてみたいと思います。まず何故、今、DXが注目されているのかを整理してみましょう。約2年前に日本経済新聞に掲載された「21世紀で、これが暮らしを変えた」ランキングでベスト10は、第1位の「高速ネット通信」を筆頭にすべてがインターネットに係るものが並んでいます。それほど2000年代に入って、我々の生活の変化はインターネット無くしては語れないほど影響を受けています。それとともに、社会はアナログからデジタルへと変わりはじめ、通販業界もネット通販の市場拡大の勢い目覚ましいものがあります。

一見、日本は世界でもデジタル化の先進国かのような感覚になりがちですが、実は「デジタル化に遅れている後進国」であるのです。実際、コロナ禍でも行政の対応で「何故、デジタル化で対応できないんだ」という苛立ちを感じた方も多いかと思います。それは行政だけではなく企業も同様のことがあり、アナログ対応から逸脱できず、顧客のニーズに対応できない、非効率な経営が行われている、等々の要因から市場から撤退せざるを得ない企業も数多くみられています。そのような中、国としても世界の市場における日本の競争力を高めるために経済産業省はデジタル化を後押しするために「DX推進ガイドライン」を2018年12月に発表しました。

それでは、実際の企業にとってDX化は何が難しいのでしょうか。1つは「DXとは何か」が理解できていないことがあげられます。とくに経営トップが、単なるデジタル化だと考えて、企業がどう変わるべきかのイメージを持たない場合が良く見られます。
2つ目は、「何から手をつけるべきか」、「議論はできるが実現させる行動に移せない」、「人・モノ・金といったリソースの不足」といったハードルを越えられないことと言われています。

通販企業は、そもそもリアルな店舗としての売り場ではなく、メディアに出稿する形、あるいはカタログを利用してきたので、ネットを売り場として早くから展開できた優位性があったことは事実です。しかし、通販企業の中でもネット通販の利用で成功した企業と乗り遅れた企業に分けられますが、その違いは、経営者(創業者)に顧客の利便性を追求する意識と企業側の採算目線でのビジネスモデルの意識があるかどうかの境目があったのではないか、と思っています。典型的なのはアマゾンで創業者のジェフベソスにユーザーファーストの意識が強くあった話は有名です。DX化で間違えてはいけないのは、決してDXは打ち出の小槌ではない、ということです。
通販では言えば、商品の魅力はコアであることは不変であり、DXはそれを推進する役割であることを忘れてはなりません。また通販の特質として顧客と通販企業間でのやりとりがフローで流れていき、その管理システムは売り場がネットであるかどうかに関わらず、デジタル化していくことは必須である、ということです。

いずれにせよDXは通販企業にとっての生命線ということは間違いないでしょう。