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コラム|柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第12回

柿尾正之【かきお・まさゆき】

小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務を経て1986年4月、JADMA:公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。
おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年6月退任。
2016年12月 合同会社柿尾正之事務所 設立。現在、企業顧問、社外取締役の他、コンサルティング、講演、執筆等。

〔著書〕『通販~不況知らずの業界研究~』(共著:新潮社)等多数。
〔主な所属学会及び社会的活動等〕日本ダイレクトマーケティング学会理事
〔大学講師歴〕早稲田大学大学院商学研究科客員准教授、関西大学大学院商学研究科、上智大学経済学部、駒澤大学GMS学部、東京国際大学商学部、他多数。

柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第12回

2021年10月19日

今回は日本のネット通販市場を調査報告書に基づいて、明らかにしてみたいと思います。その調査報告書は経済産業省が1998年(平成10年)度以来、実施している「電子商取引に関する市場調査」です。毎年、6月~7月頃、前年を対象とした調査が発表されますが、調査手法は事業者ヒアリングを基に推計する方法がとられており、日本のみならず、米国、中国の3か国を対象としていることが特長です。

今年の7月に発表された最新の報告書を基に見ていきたいと思います。
まず、はじめに2020年のネット通販市場は19兆,800億円で前年から830億円の減少となっています。皆さんは「?」と思ったのではないでしょうか。昨年はコロナ禍となり、ネット通販は絶好調のはずですが、何故かといえば物販系の通販は前年に比べて21%増ですが、サービス系の通販はマイナス36%と大幅に減少しています。そうです。サービスの中心は航空券のチケットや旅行関係で、それらが落ち込んだことが要因になっているのです。ちなみに、ネット通販のもう一つの分野は「デジタル系」でこれらは電子書籍や音楽関係で、こちらは約15%伸びています。

次にコロナ禍の中で、ネット通販が伸びたきっかけとなったことがあります。それは昨年の4月に政府が「人と人との接触を減らす10のポイント」が公表されましたが、その中の1つに「待てる買い物は通販で」が入っていました。これがひとつのきっかけになったようで、もともと割合が高い大手ECプラットフォームの比率は5ポイント上昇して約70%となったと、記述されています。このあたりは、日本のネット通販市場の特色でもあり、かつ自社ECサイトを展開する難しさを示すとろころです。利用者のネット通販の利用の仕方は大手ECプラットフォームが中心となっており、自社サイトを展開する難しさも指摘されています。

次に物販系分野における商品毎の市場規模の状況を見てみます。この動向で重要なのは、商品毎の全体の市場規模に対するネット通販の割合、いわゆるEC化率です。EC化率が高い順番に見ると「書籍、映像・音楽ソフト」(42.9%)、「生活家電、AV機器等」(37.4%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(26.0%)がベスト3となっています。
一方、店舗が多い割合にはEC化率が低いのは「食品、飲料、酒類」(3.3%)と「化粧品、医薬品」(6.7%)です。このあたりは、食品の割合が高い欧州、まんべんなくEC化率が高い中国や米国の状況とは異なり、商品毎の強弱が日本にはあるようです。しかし、逆の見方では、現在EC化率が低い商品は、日本ではこれから期待できる商品ともいえそうです。

次に越境EC市場についてですが、この調査では日本・米国・中国の3ヵ国間の取引関係を考察していますが、日本は米国、中国の両国に対して輸出>輸入の輸出超過国になっており、越境ECでの取引が日本のポテンシャルになっていることがわかります。

国内市場が、人口減少、老齢化によって縮小傾向にある中で、今後、越境EC市場は日本の小売業にとって重要な市場となるものと考えます。