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コラム|柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第9回

柿尾正之【かきお・まさゆき】

小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務を経て1986年4月、JADMA:公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。
おもに調査、研修業務を担当。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年6月退任。
2016年12月 合同会社柿尾正之事務所 設立。現在、企業顧問、社外取締役の他、コンサルティング、講演、執筆等。

〔著書〕『通販~不況知らずの業界研究~』(共著:新潮社)等多数。
〔主な所属学会及び社会的活動等〕日本ダイレクトマーケティング学会理事
〔大学講師歴〕早稲田大学大学院商学研究科客員准教授、関西大学大学院商学研究科、上智大学経済学部、駒澤大学GMS学部、東京国際大学商学部、他多数。

柿尾 正之氏のダイレクトマーケティングview 第9回

2021年7月19日

 コロナ禍で伸びている通販商品と言えば、やはり食品でしょう。
在宅時間が増すことによって外食は減り、家での食事が増えることになるとともに、買い物を控えることから通販の利用機会が増加したことによるものと思います。日本の通販での食品の位置づけは、コロナ禍以前ではどうだったか、というと経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると2019年のネット通販での食品の市場規模は1兆8,233億円で、EC化率(市場全体のEC割合)は約2.9%でした。前年に比較すると増加はしていますが、他のジャンルに比べるとEC化率ははるかに低くかったようです。欧米でのネット通販における食品の割合が高いのは、店舗の立地密度が低いことと営業時間等のサービスが日本と異なることにあるものと推測されます。日本では人口集中地区の多くで徒歩圏に食品スーパーがあり、営業時間が長く、他の商品は通販で購入しても食品だけは店舗で購入する、という考え方の顧客が多いのも特徴です。コロナ禍以前での通販での食品は、どちらかというと非日常を求める傾向にあり、例えばお節、カニ等が代表的でいわゆるハレとケ、でわけるならばハレのジャンルの商品が動いていました。その逆のケ、つまり日常は店舗が強い傾向にあったわけです。

 さてコロナ禍となって以降は冒頭で述べたように、日常の食品にもスポットが当たってきました。食品通販と言っても、いくつかのタイプに分けられます。
まずは通販専業のタイプで、その代表は「オイシックス・ラ・大地」です。2000年にオイシックスが創業され、その後、大地、らでぃっしゅぼーやを経営統合して現在の形となり、2021年3月期の連結売上高は、前期比40.9%増と大幅に増加して一千億円の大台を突破しました。
 次に店舗を主体とする、いわゆるネットスーパーのタイプです。日本で多くのネットスーパーがスタートしたのは2014~5年頃でしたが、顧客の感覚としては、いつも購入している店舗での安心感を基にした、利便性があるサービスといった位置づけで、徐々に売上高を伸ばしていきましたが、オペレーションや配送コストが利益を圧迫していました。しかし、ここに来てコロナ禍がきっかけとなり、各大手スーパーは人工知能(AI)やロボットを活用することにより配送拠点を整備したり、ライバルでもあるアマゾンと提携したり、スーパー各社は本腰を入れ始めています。
 3番目は既存通販企業による食品通販の取組みです。その代表はベルーナで、その強みの1つとなっているのがベルーナグルメと呼ばれる食品通販のラインアップで、食品定期コース、各種総菜・おかず、お中元・お歳暮、日本酒・地酒・焼酎、と充実した商品群となっているのが特長です。
 4つ目は食品・飲料系メーカーの企業です。コロナ禍以前から通販事業を立ち上げ、徐々に売上を伸ばしてきましたが、たとえばキリンビールが展開する会員制生ビールサービス「Home Tap」は、家呑みが増えるライフスタイルの変化に対応するものとして注目されています。

 いずれにせよ食品は人間が生きていく上での必需品とも言える商品であり、コロナ後も成長が続いていくことは間違いないと思います。