BIPROGY Foresight in sight BIPROGY Foresight in sight

調達品ごとのBCPサプライチェーン管理の必要性:SRM コラム

2023年2月20日

調達購買部門にとってのBCPとは?

一般的にBCP(Business Continuity Planning)は、企業が自然災害やテロなどといった緊急事態発生時に損害を最小限に抑え、早期復旧して重要な事業を継続させるための事業継続計画のことです。緊急事態発生直後の安全確認フェーズ、その後の業務復旧フェーズにおいて速やかな対応を行えるよう、あらかじめ体制、手順を定め、それを実施可能な仕組み(社員の安否確認や、連絡網整備、リモートワーク、情報システムの二重化やクラウド化など)を整える取り組みが主なものです。では、製造業の調達・購買部門にとってのBCPとはどのようなものでしょうか。
製造業の調達購買部門にとっての目的は「調達品の供給を確保して生産活動の影響を最小限にする」ことです。2011年の東日本大震災とタイの洪水でBCP対策の重要性が世の中に広まりましたが、その後も熊本地震、北海道胆振東部地震によるブラックアウト、東日本台風の暴風と大雨などにとどまらず、新型コロナウィルスの流行による工場操業停止、ロシア・ウクライナ情勢など、自然災害・パンデミック・地政学リスクと影響範囲は広がりを見せています。製造業の調達品は部品や原材料、副資材、設備など多岐に渡っており、特に直接材の場合はどれか一つでの供給が滞るとそれを使用して生産する製品の製造はできなくなり、生産活動を止めてしまうこととなります。そのため、製造業の調達・購買部門における対策としては、

・サプライヤの製造拠点調査
・マルチサプライヤー
・マルチファブ
・戦略的在庫保有

などが挙げられます。今回は「サプライヤの製造拠点調査」について解説していきます。

BCPサプライチェーン情報の収集する場合のパターン

災害発生などの緊急時には、調達・購買部門は災害の影響範囲を見極め、調達品の供給に影響があるかどうかを把握しなければなりません。東日本大震災当時は、二次サプライヤ以降も含めた製造拠点情報を収集できていなかったため、被災状況を確認するためにはサプライヤに聞くしかありませんでした。しかしながらサプライヤ側は、サプライチェーン情報が未整理の状況で取引のあるバイヤー企業の多くから相当量の問い合わせが集中したため混乱を極め、復旧遅れに拍車をかける事態となりました。この時の反省と経験から、多くの企業でサプライヤの製造拠点の事前調査を行い、有事に備える必要性を考えるようになりました。当然ながら、1次サプライヤの先には2次、3次サプライヤが存在します。従って、BCP対策の事前準備としては1次サプライヤの製造拠点情報だけでなく、出来る限りその先のサプライヤ、即ちサプライチェーン全体を把握する必要があります。ただここで見落としがちなのは「調達品ごとにサプライチェーンは異なる」という点です。
以下では、サプライチェーン情報の収集・管理にあたって、調達品ごとに情報を持つ場合、調達品ごとの情報を区別しない場合、それぞれについてメリット/デメリットを考えてみます。
【図.1】は1次サプライヤから購入している調達品ごとにサプライチェーン情報を保持している場合のパターンです。

図.1 調達ごとにサプライチェーン情報を取得

A社から複数の品目を調達しており、その調達品ごとにサプライチェーン情報を取得している例を表現しています。2次以降のサプライチェーン情報は1次サプライヤであるA社に情報収集を依頼して取得することになりますので、図.1の例ではA社は調達品の数だけサプライチェーン情報を用意しなければならず、A社の作業負担が大きくなってしまうのがデメリットです。メリットについては後述します。

【図.2】は1次サプライヤから企業単位でサプライチェーン情報を収集して保持する場合のパターンです。

図.2 企業単位にサプライチェーン情報を取得

A社と取引のあるどの調達品かに関わらず2次以降のサプライチェーンの情報を収集します。全体を網羅した1つのサプライチェーンを回答すれば良いので図.1のパターンと比べるとA社の作業負担は大きく軽減できます。
では、どちらのパターンが良いのでしょうか。

なぜ調達品ごとにBCPサプライチェーン情報を管理するべきなのか

サプライチェーン情報は災害に備えて平常時に調査しますが、その情報が役に立つのは災害等の緊急事態発生時です。事前に入手したサプライチェーン情報をもとに被災地域で絞り込んで影響範囲を確認します。

図3 災害時にリスクのある品目を直ちに把握できる

図.3のケースは調達品ごとにサプライチェーン情報を調査していた場合の絞り込みです。被災地域で絞り込みを行うと3次サプライヤのZ社の所在地が被災地域にあったとします。Z社から辿っていくとA社から調達している『ABC00003』にたどり着きました。被災地域にあるZ社が実際に被災しているかはまだわかりませんが、もし被災していたら『ABC00003』の調達に影響がある可能性がわかります。これにより、A社には『ABC00003』に絞って影響可否を確認できます。問い合わせを受けたA社は『ABC00003』についてだけ調べて回答すれば良いため、短時間で回答ができます。バイヤー企業側は被災影響がありそうな調達品を特定でき、製造部門に伝えることでどの製品の生産にリスクがあるかを迅速に把握でき、会社として準備や対策にすぐさま取りかかることができます。また、各1次サプライヤが迅速に回答してくれるため、影響可否をタイムリーに更新できるので、精度高く生産可否を判断把握できます。調達品ごとのBCPサプライチェーン管理の場合は、平常時の調査ではサプライヤの負担が高いものの、逆に災害時の負担は大きく軽減できます。最小限の負荷で済むため、双方にとってメリットがあります。

もし、図.2のようなBCPサプライチェーン管理の場合は災害時にサプライヤ側の負担は大きくなります。実際に被災してしまったサプライヤが最優先するのは従業員とその家族の安全です。そんな大変なときに供給に影響のある調達品は何かを調べて大至急報告する過度な負担を強いられたサプライヤの心情に思いを馳せることはサプライヤとの良好な関係構築に必要なことではないでしょうか。

また、地震情報を使ってサプライチェーン上に一定以上の震度があった1次サプライヤに対して自動で安否確認調査を行いたいという要望を聞くことがあります。強い震度でも揺れている時間が短く被害がほぼ無いケースもあり、ニュースやインターネット、SNS等で十分に状況を把握してから確認することでサプライヤ側に過度な負担を強いるこがないよう配慮することも大事なことです。

サプライヤ側のメリットを意識した調達DXとBCPサプライチェーン管理

とは言うものの、どちらのやり方であれ平常時のBCPサプライチェーン情報収集はサプライヤ側に負担がかかることは避けられない事実です。供給側として安定供給するのは義務だと正論をかざしただけでは協力を得ることはできません。調達品ごとのサプライチェーン調査であればなおのこと負荷がかかるため、極力軽減する努力は必要です。

・サイズ違い品・シリーズ品などは同一サプライチェーンなので代表する調達品だけを対象にする
・代替品が比較的簡単に用意できる調達品は除外する
・納期に猶予があるものは除外する
・購入数量の少ないものは除外する
・取引量の少ない仕入先は除外する
・主力製品以外に関係する調達品は優先度を下げる

などのメリハリは必要です。自社の利害とサプライヤ側の利害が反比例しがちであることを念頭に置いた気遣いがあればサプライヤとも良好な関係が築けるはずです。また、BCPサプライチェーン管理以外でサプライヤ側にメリットを感じてもらえるような状況を作りだせれば、サプライヤ側も「BCPは積極的に協力しよう」という意識になるはずです。例えば、

・紙や捺印を必要としない見積依頼/回答による負担軽減
・原材料、燃料コスト高騰に起因する価格改定要請への配慮
・特急納期を頻発させない
・QCDや協力度への正当な評価と、高評価に対するリターン
・サプライヤが必要とする情報を常時共有する仕組み
・検収後に支払明細を開示し、請求書発行業務の負荷軽減

などです。これらはあくまでも一例ですが、これらの一部はSRM(Supplier Relationship Management)のITツールで実現できるものです。もちろんBCPサプライチェーン管理もSRMの一部です。これらの検討を自社の効率化だけでなく、サプライヤとのWin-Winの関係を構築して信頼関係を醸成することも念頭に置いて調達DXを考えてみてはいかがでしょうか。

担当:インダストリーサービス第四事業部 村高浩司 小林勇太