BIPROGY Foresight in sight BIPROGY Foresight in sight

横須賀市中央消防署副署長
消防司令長 岩崎力大様
インタビュー前編

クロノロジーによる
災害時の情報管理・運用の核心

※取材当時の商号は日本ユニシス株式会社でしたが、2022年4月1日よりBIPROGY株式会社に変更となりました。

緊急時にこそ的確な情報管理が必要になる!”災害ネットの生みの親” 横須賀市様がクロノロジーによる災害時の情報管理・運用の核心を語る。

「クロノロジー」とは、災害時などに発生する情報を時系列に沿って書き出して管理する手法で、多くの危機管理の現場で活用され効果を上げています。現在日本ユニシスでは「クロノロジー型危機管理情報共有システム 災害ネット」をご提供していますが、これは元々、2013年に横須賀市様の「災害情報通信ネットワークシステム」(以下、災害ネット)」を構築した際にご教示いただいた内容から着想を得て、クロノロジー機能を切り出したものです。(サービス名も、横須賀市様のシステムからいただいています)

出典:消防防災科学センター「災害写真データベース」
出典:消防防災科学センター「災害写真データベース」

今回、クロノロジーによる災害時の情報共有の有用性をより広く世間に知ってもらうために、「なぜクロノロジーが必要なのか?」「運用に際してのポイントは?」などについて、構築当時横須賀市様にて危機管理を担当されていた、現横須賀市中央消防署副署長 消防司令長 岩崎力大様に日本ユニシス担当の堀田がお話しを伺いました。

現横須賀市中央消防署副署長 消防司令長

岩崎力大様

日本ユニシス株式会社

堀田尋史

神奈川県の南東部に位置し、東は東京湾、西には相模湾という大きな湾に囲まれた横須賀市。古くから軍港都市として発展してきた同市は、米海軍の第7艦隊のベース基地をはじめ、陸海空各自衛隊の拠点や防衛大学なども所在するなど、わが国の防衛や安全を長く支えてきた土地柄でもあります。岩崎様はそのような横須賀市の消防吏員を拝命。消防および救急の最前線で人命救助や市民の安全確保に尽力された後、その経験を生かして消防指令システム導入を推進。その後、市長部局へ出向し、横須賀市全体の災害対策・危機管理などを歴任された後、現在は最前線で陣頭指揮を執るべく、中央消防署の副署長として現場へ戻られています。

横須賀市 米海軍の第7艦隊のベース基地イメージ

阪神淡路大震災の教訓から
災害情報を共有するシステムの必要性を確信

岩崎 力大様

堀田:
私が初めて岩崎様にお会いしたのは、横須賀市様ではちょうど第2世代の災害ネットを運用されていた時期に当たります。そもそもどのような背景で導入されたのかなど、背景からお話しをお聞かせいただけますか。

岩崎様:
阪神淡路大震災発生時の体験がそもそものきっかけです。その時、国や他の自治体では「神戸で何が起こっているのか?」という情報がほとんど伝わって来ませんでした。長期間にわたる災害復旧・復興が必要な時に情報を集約したり共有したりする仕組みがなかったために、国や他の自治体も動きが取りづらかった。いつ要請があってもいいように体制は整えていましたが、応援に行くべきかどうか判断が難しい状態でした。

横須賀市は地理的状況から、もし大規模災害が起これば陸の孤島になってしまう恐れがあります。そのような事態を想定して災害対応用のシステムなどを調べてみたのですが、当時私たちがイメージするようなものがありませんでした。それならゼロから構築していくしかありません。少し年数がかかりましたが、第1世代の災害ネットという形でリリースすることができました。

堀田

堀田:
現在稼働している第3世代災害ネット発注時のRFP(提案依頼書)には、これまでの反省点や課題およびその解決の方向性が記載されており、”なるほど”と思えるようなものでした。これまでの課題を踏まえたシステム開発の方向性はどのようなものだったのでしょうか?

岩崎様:
最も大きな変化はさまざまな技術の進歩です。阪神淡路大震災の際には発生から2,3時間後にようやくヘリコプターからの情報が入ってきましたが、今だとSNSに投稿するとほぼリアルタイムで情報が流れます。また各通信キャリア独自で安否確認システムを構築されているので、自治体はもうそこには力を入れる必要がなくなりました。自治体や企業がそれぞれ何をしなければならないのかが少しずつ見えてきた訳です。

また、普段システムを触る機会があまりない消防以外の部局の方は、いざ災害が発生した時に「はい、使ってください」と言われても無理な話です。そういった一種のジレンマがある中でも何とか対応できるシステムにならないかという思いもありました。

緊急事案発生時の複雑化・長期化する情報管理には
時系列による「クロノロジー」が効果を発揮

堀田:
そこで「クロノロジー」の発想が出てくるということですね。まず情報収集・集約が重要なポイントになってくる訳ですが、一般的にはよくホワイトボードを使っていますよね。

岩崎様:
阪神淡路大震災以降、国は法制度などを整備すると共に、各自治体や企業には図上訓練を推奨するようになりました。図上訓練では紙とテーブル、そしてペンを用意して、まず紙に書いて、それがある程度まとまるとホワイトボードに書く、というようなやり方です。
その後自然災害やパンデミックなども考慮したBCP(業務継続計画)や、他国から武力攻撃や侵略に対する国民保護などの観点も注目されるようになりました。そうなると消防の領域では収まりきらないので、当市では危機管理を対象とした専門部署を組織しました。対象とする領域が拡大し関連部署も増えてきたことで、2時間程度の訓練でもホワイトボードが一杯になってしまい、ホワイトボードの数が不足してしまいます。現実の災害対応が長期にわたった場合はどうするのか? などの問題もあらわになってきました。
さらに責任者や担当者が外出や出張している場合の情報共有や引き継ぎはどうすれば良いのだろうか? などさまざまな現実的な問題が露見してきました。

岩崎様、堀田

堀田:
クロノロジーという言葉は、岩崎様から教えていただいたのですが、元々自衛隊で昔から使われている言葉ですね。

岩崎様:
市の防災訓練にも参加いただいている自衛隊や海上保安庁は、必ず時間を入れて何が起きたかを記録し、ホワイトボードに時系列で事象を整理しながら記載していました。それを見て、「そうやってまとめて書いていけば良いのか」と感じました。そこで「自衛隊や海上保安庁にクロノロジーの講義を受けてみよう!」ということになりました。

消防での時系列管理と、自衛隊や海上保安庁と決定的に違うのは管理する時間軸の長さ。自衛隊などの場合は消防よりも長時間にわたる管理が必要になりますので、まとめ方に工夫が必要です。講義には他都市の防災機関のメンバーも参加しており、それをきっかけにクロノロジーの考え方が浸透していったように思います。

情報入力のモチベーションを下げずに、
しかも組織間で情報共有できる仕組みづくりがポイント

堀田:
横須賀市様と出会うまで、私自身災害情報システムのあるべき姿をなかなかイメージできていなかったのですが、第3世代災害ネットの入札時に初めてクロノロジーの考え方を知り、RFPを拝見した時に「こうやればいいのか!」と道が拓けたのを覚えています。改めてお聞きしたいのですが、現世代の災害ネット構築にあたり、日本ユニシスをご採択いただいた理由は何だったのでしょうか。

岩崎様:
ご提案の多くは自社のパッケージ製品ありきで、要求に合わない部分は運用でカバーするものでした。日本ユニシスは、とにかくクロノロジーの考え方に凄く食いついてきてもらって、「これはいい! これを何とかシステム化できないか?」と話をいただきました。面白い会社だな、なんて部下と話をしていたのを覚えていますし、ちょっと一緒に仕事してみたいなと思いました。

岩崎様、堀田

堀田:
ありがとうございます。RFPでポイントだと感じたのは、時系列情報が組織ごとに分かれて管理できる点です。時系列管理に加えて、災害時の情報は組織単位で管理されます。ちょうどホワイトボードが部署ごとにあるようなイメージです。その各部署のホワイトボード情報のうち、どのような方法で必要な情報だけ他部署と共有・連携するのかが今回の大きなポイントでした。

1事象ごとにこれは伝えるべきだと判断したものはチェックを入れることで上位組織に共有されて情報がつながっていく。意思決定のためのピラミッド構造がシステム上に実現されるようなイメージです。そのような構造を採用することで、多くの情報のうち、必要なものだけ”ろ過”されて上位層に浮き上がっていくという構想ですね。「なるほど、これだ!」と思いました。ただ単にホワイトボードをシステム化するのでない、運用の秘訣がここに隠されていたのだと思いました。

岩崎様、堀田

岩崎様:
仮に自部局のホワイトボードが他部局や部局のトップなどに見られているとなると、非常に書きにくいものになります。その結果、必要な情報が集まらなくなる。現場には、上には知られたくないけど必要な情報があります。反対に、上には上で必要な情報があり、必ずしもすべての情報が必要な訳ではありません。それらの問題を解決するために、必要な情報が集まり、なおかつ適切な部署に共有されるような仕組みを実現するのが先ほど堀田さんがおっしゃった組織間の情報共有・連携の仕組みです。
訓練の際には、ホワイトボードの情報を報告用のExcelに入力して、そこらから必要な情報だけプロジェクターで投影して共有する、というような方法を試したこともあります。しかしその方法だと、どの情報を入力して良いのか各担当者では判断がつかず、逐一入力の要否を責任者に確認するというようなことになってしまいました。またプロジェクターで投影して共有するレベルでは使い勝手が悪く実用的ではありませんでした。
さまざまな試行錯誤をしたのですがRFPを作成した段階では、「こうしたい」というイメージしかない状態でした。しかし現場で使えるものにするにはこのイメージしかないと確信していたので、それを日本ユニシスに実際にカタチにしていただいたという感じです。

USER PROFILE

横須賀市

横須賀市

基礎情報
市長:上地 克明(かみぢ かつあき)
市制施行:明治40年(1907年)2月15日
中核市移行:平成13年(2001年)4月1日
市域面積(令和元年10月1日):100.82Km2(東西約15.5Km、南北約15.8Km)
人口(令和2年8月1日現在):390,905人
世帯数(令和2年8月1日現在):167,301世帯
人口密度(令和2年8月1日現在):3,877人/km2

本事例に掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。なお、事例の掲載内容はお客様にご了解いただいておりますが、システムの機密事項に言及するような内容については、当社では、ご質問をお受けできませんのでご了解ください。

日本ユニシス株式会社は、2022年4月1日よりBIPROGY株式会社に商号が変更となりました。

*記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。