BIPROGY Foresight in sight BIPROGY Foresight in sight

台風・地震……
"自然災害大国”日本における災害BCPの重要性

BCP・災害対策コラムは、企業のBCP・災害対策に役立つ基礎知識をご紹介します。

近年続発する台風や地震で、事業にどのような影響が出たのか。BCP/BCMに真剣に取り組む企業と取り組まない企業とで二極化する日本において、BCP担当者が抱える課題とその原因をまとめました。

災害が起きると事業にどのような影響を及ぼすのか

近年、自然災害の中でも、特に台風や大雨など風水害が非常に多く発生しています。印象に強く残っているものだけでも、2018年7月の西日本豪雨、9月の台風21号、2019年9月には台風15号、10月には台風19号…と、復旧活動中に新たに災害がやってくるような状態で、「もうこの時期は家に帰れないものだと思っている」というBCP担当者の声を聞くことが多くなってきました。もとより日本は海外に比べ、台風、大雨、大雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火など、自然災害が発生しやすい国土と言われています。具体的には、企業の事業継続にどのような影響が出るのでしょうか。

例えば2018年の台風21号では、最大で157の医療機関が停電し、23の医療機関が断水。また関西国際空港では、強風に伴う高波により浸水被害が生じ、滑走路の機能が停止し、一部の旅客ターミナルで停電も発生。さらに空港と対岸を結ぶ連絡橋にタンカーが衝突し、陸路が遮断されて一時乗客が孤立する様子が大きく報道されました。

このような地域の主要拠点の機能が麻痺すると、ヒトやモノの移動が滞り、物流や観光などへの影響は避けられず、経済圏全体への打撃につながります。ある大手製造業では東北の工場で生産する電子部品を関空から出荷していたため、別の空港から代替出荷する検討を強いられました。また製品の前工程を日本で行い、海外で後工程を行うようなサプライチェーンを組んでいた別の企業においても、関空が使えなくなったことで代替輸送を検討せざるを得ませんでした。たとえ自社の生産拠点が無事であっても、他社が機能停止することによって自社の事業継続に影響が出るケースも想定しておかねばならない点は、近年のBCP/BCMの難しいところと言えます。

地震の例を見てみると、北海道胆振東部地震では、道内発電力の約4割を占める主力発電所の設備が地震直後に緊急停止または徐々に出力低下し、最終的に停止に至りました。さらに送電線事故に伴う水力発電所の停止など要因が重なった結果、日本で初めてとなるエリア全域の大規模停電(ブラックアウト)が発生し、道内全域で最大約295万戸が停電。さらに北海道は、BCPの策定率が特に低い農業や酪農などが多い地域性も重なり、特に乳業工場において操業を停止するところが相次ぎました。

ブラックアウト自体はさまざまな原因が複合的に重なったレアケースであり、実際、内閣府の「平成30年度に発生した自然災害に対する企業等の取組に関する実態調査」では、近隣企業等とのブラックアウトに対する協力体制について、「検討を行いたいが行えていない」が最も多く、ブラックアウトのような地域全体の事業継続に向けた取組みは全国的に見ても進んでいるとは言えないようです。

日本企業が抱える災害対策の課題

さて、日本企業におけるBCPの実態はどのようなものでしょうか。内閣府の「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、業種別のBCP策定率は、電気・ガス・熱供給業・水道業が67.3%、金融・保険業が66.0%とほぼ同じ高い結果となりました。

次いで、運輸業で50.1%、製造業45.0%、建設業42.3%へと続きます。企業規模別で見れば、BCPを「策定済み」または「策定中」とする大企業は8割強、中堅企業は5割弱となっています。

また、BCPを策定したきっかけは「近年多発する自然災害への備え」が最も多く、ここ数年でさらにBCPの策定は加速しているものと想像できます。

特に大企業において、BCPの策定が一巡しつつある一方で、企業のBCP担当者が依然として不安を抱えているのは、その運用とメンテナンスまで含めたBCM(事業継続マネジメント)の観点では「まだまだ」という自社の現状を鑑みてではないでしょうか。一般的にBCPがBCMまで発展しない大きな理由として、「経営層を巻き込めていない」と「現場を巻き込めていない」の2点が挙げられます。

近年の災害で大きな被害を受け、事業継続が少しでも危ぶまれた企業は自然と経営や現場を巻き込みやすいものの、被災経験がない企業はいまだに社内で必要性を理解されていない場合も多く、BCP/BCMに真剣に取り組む企業と取り組まない企業とで二極化しつつあります。

BCP/BCMに経営層や現場を巻き込めていない背景に、「BCPの文書量が膨大になっている」ケースと、「訓練をやっていない/訓練が形式化している」ケースがあります。BCPの策定自体は、ある意味、目標が明確なため、ついついドキュメント作成に注力してしまい、分厚い計画書やマニュアルができあがってしまいます。そもそもBCPや防災に対する一般社員の意識は低い中、分厚いドキュメントを懸命に周知してもなかなか賛同を得られません。

また、定期的な「防災訓練」や「安否確認メール訓練」だけでなく、具体的な災害を想定した「事業継続の訓練」を行い、そこにできるだけ多くの関係者を巻き込んでいく必要があります。シナリオを作成し、災害対策本部員となる役員を集めて意思決定までの手順を確認する「読み上げ型」の訓練を行うことも有効です。ただこの場合も、与えられたセリフをそれぞれが演じるだけになってしまっているケースがよく見られます。

訓練において失敗することが許容されておらず、全て台本を作ってしまったり、現場の責任者を呼ばずに進めてしまったりすると、訓練の形式化・形骸化につながってしまいます。実際、経営者のほうから「実際の災害でこんなにスムーズに動けるのか?」と疑問の声が出たという例も多く聞きます。

BCPに完成はなく、常に改善・改訂が求められます。しかし、この改善・改訂は、実際に動いて、経験して発見した気づきや意見をインプットにして行うべきです。

つまり、ドキュメントの量ではなく、アクションの量がBCPをBCMに昇華させるために必要な指標と言えるでしょう。

災害対策BCPにはすぐに・誰でも使えることが重要

BCPをBCMにまで高めなければ、いざというとき、すぐに動ける状態になっておらず、結局のところ「事業継続」という目的を達成できません。そのためには経営者や現場を巻き込んで、BCPの改善サイクルを回す「仕組み」を作る必要があります。

例えば、自社の主要部門、製造業であれば多くのサプライチェーンに絡み、万が一の場合、重要顧客に迷惑をかけてしまうような部署と一緒に、初動対応フローをA3一枚の紙にまとめ、いつでも誰でも取り出せるように保管場所を定める企業もあります。いざというとき、分厚いマニュアルを開いて行動する余裕はないため、BCPは「すぐに・誰でも使える」ことが重要です。

このように具体的な自分の顧客の顔を想像させ、少ない量のマニュアルに要素を絞ることで、現場からの賛同を得ることができるようになります。

一方で、このように初動のフローやマニュアルを現実的なものにしていても、実際の災害では、これらがうまく作動しない場合があります。通常、フローやマニュアルは、正確な情報が分かっているという前提で書かれるものがほとんどですが、実際には情報が入ってこなかったり、想定していない情報が入ってきたり、出社できた社員の数が少なかったりと、現場は大変混乱します。

電話が鳴りやまず、ホワイトボードに玉石混合のありとあらゆる情報を書きなぐった状態で、迅速かつ最善の判断をしなければなりません。このような場合、ITツールを利用した情報収集を行うのが有効ですが、混乱時に使わざるを得ないため、やはり「すぐに・誰でも使える」ことが重要なのは共通しています。

「クロノロジー(時系列)型危機管理情報共有システム 災害ネット」は、かつて「凝ったシステムにしすぎて失敗した」という失敗経験から作られた、災害時でも使えるシンプルな情報共有の仕組みです。ホワイトボードに時系列で情報を記録するのと同じ要領で、誰でも簡単にPCやスマートフォンからクラウド上のホワイトボード(クロノロジー)にすべての情報を収集できます。

これまで数多くの部署同士が、ひっきりなしに電話やメール、またはテレビ会議などでやりとりしていた時間を大幅に短縮し、クラウド上のホワイトボードから、最新の欲しい情報のみ確認することができるようになります。こういった便利なITツールも、まずは訓練で使ってみて、経営層から現場の担当者までを巻き込みながら自社に馴染ませていくことが重要です。なお、訓練のデータをクラウドに記録しておけば、あとからの振り返りがより具体的になり、BCPをより実効性の高いものすることができます。

つい「頭でっかち」になりがちなBCPを、よりスマートかつドロドロした「使えるBCP」にするために、全社員が想像して、行動することがBCMの確立につながります。「頭ではわかっていたつもりでも、やってみるとできなかった。」そんな声が出れば出るほど、その企業は強くなっているはずです。

*記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。