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IWMS/FMソリューション「ARCHIBUS」コラム

ファシリティマネジメントとは何か?施設管理とはどう異なる?

2022年9月13日

「ファシリティマネジメント」という言葉をご存知ですか?
ファシリティマネジメントは2011年3月に発生した東日本震災以降関心が強まっているものです。
とはいえ、言葉を聞いたことはあるけど具体的にどのようなものなのかはわからないと疑問に思っている方も多いでしょう。
そこで今回は、ファシリティマネジメントについて詳しく解説していきます。

ファシリティマネジメントとは?

初めに、ファシリティマネジメントとは何か、その意味を見ていきましょう。

ファシリティマネジメントの定義

ファシリティには施設、設備という意味があります。
ファシリティマネジメントは、そのような建物や施設、設備などの施設資産や、その環境を全て含めた企画や管理、活用することをいいます。
公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会では、「企業・団体等が保有または使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義しています。
経営的な視点に立った総合的な活動として捉えているのです。

ライフサイクルコスト(LCC)とは?

ライフサイクルコストとは、製品や建物、構造物などが作られてから、その役割を果たすまでにかかるトータルの費用のことです。
建物の場合は企画や設計から、建設、修繕、最後の解体までに必要となるすべての費用のことです。
建物を総合的に管理すれば、より効率よく経営していこうという手法のファシリティマネジメントにおいても、ライフサイクルコストを考えることが重要な問題となっているのです。
ちなみにライフサイクルコストは、イニシャルコスト+ランニングコストから作られた言語です。イニシャルコストは建物を作るために必要な初期建設費です。
ランニングコストは建物を維持するために必要な費用のことで、基本的にはエネルギー費や修繕費、消耗品、税金などが挙げられます。

ファシリティマネジメントの発展と歴史

ファシリティマネジメントの起源は1970年代後半。当時、景気の低迷していたアメリカで誕生しました。
オフィス家具メーカーで有名なハーマンミラー社が、ミシガン州立大学のアームストロング教授とともに、ファシリティを有効活用するための研究所を設立したのです。
この研究所は後にファシリティマネジメントの普及・認知のための組織として国際ファシリティマネジメント協会に発展することとなります。
現在ファシリティマネジメント協会にはIFMA104カ国が加盟しており、会員数は約24,000人にも上っています。
研究所が設立されてから1990年代ごろになると、この活動はアメリカのみならずイギリスやオランダなどのヨーロッパ全土に広がることになりました。
ヨーロッパではアウトソーシングビジネスとして普及し、ファシリティマネジメントのサービスを提供するところが急速に増えたのです。この影響からか、ヨーロッパだけではなく上海やシンガポール、オーストラリアにも支部が設立されていきました。
1990年代後半には中南米、アフリカ、2000年以降にはアジア独自のファシリティマネジメント協会が発足するほど進展することになったのです。

ファシリティマネジメントの発展と歴史

日本にファシリティマネジメントの概念が広がったのは1980年代半ばです。他の国より概念が知れ渡るのは早かったのですが、なかなか順調に進めることはできませんでした。
日本の企業や自治体などが積極的に取り組むようになったのは、なんとつい最近のことなのです。
以前では、日本は老朽化した建物はすぐに取り壊し、新しい建物を作る「スクラップ&ビルド」という考えが一般的でした。こうした考えが広まっていたのは、バブル成長期のころには今よりも資産調達のハードルが低かったことが理由の一つです。
建物を取り壊しても、すぐに新しい建物を建てられるほど資金調達が容易な時代だったため、長期間建物を維持し続けるという考えはありませんでした。そのため、ファシリティマネジメントの概念を知っても、その活動に積極的になることはなかったのです。
しかしバブル崩壊をきっかけとして、企業は考えを大きく改める必要が出てきました。
バブル崩壊を迎えると日本の経済成長は急速に衰え、資金調達が難しくなってきたのです。
そこから、耐用年数まで長期間にわたって有効活用することが求められるようになりました。ただ、建物を使えば使うほど維持費が高くなり、運用コストも上がります。
この経緯からファシリティマネジメントの必要性が広がり、現代ではやっと日本でも積極的に取り組むようになったのです。

ファシリティマネジメントの主な業務

ここからは具体的なファシリティマネジメントの業務について見ていきましょう。
業務内容は不動産部門、営業部門、経理&総務部門に分けて説明していきます。

不動産部門

不動産部門の業務は、建物に関する維持管理や保全などです。
設備が老朽化すればメンテナンスが必要になりますし、その他にも清掃や消防点検、空気環境測定、水質検査などを定期的に行う必要があります。
また、その他にも建物の寿命を延ばすための修繕計画や省エネ化など、建物の管理全般について活動しなければいけません。ファシリティマネジメントではこのような不動産に関わる業務をメインに請け負っているのが特徴です。

営業部門

営業部門の業務は、テナントの管理や販売促進などです。
テナントや入居者の対応、募集、誘致の計画、各種契約の管理、官公庁への届出など、営業部門の業務内容になります。
建物全体の管理を行う不動産部門と並び、営業部門も建物を活用するためにはとても重要なポストなのです。

経理や総務部門

経理や総務部門の業務は、金銭に関することが多いです。
その日や月の売り上げ、入出金の管理、決算書や報告書の作成などの業務が一般的となっています。ただ、その他にも金銭の管理や決算書などの作成をスムーズに行うために、さまざまな調整をしなければいけません。
直接的に建物の管理や運営に関わるわけではありませんが、大切な資産である建物を長期的かつ効率的に運用するためには欠かせないポストです。
このような、金銭的に関するマネジメント業務では、建物の規模や組織によって業務範囲が決まります。たとえばどう活用すれば費用対効果を最大化できるのか、より建物を長持ちさせるにはどうすれば良いのか、入居者が過ごしやすい環境を整えるにはどうすれば良いのかなどを考えていきます。

従来の施設管理との違いは?

日本でも近年急速的に活動が広がっているファシリティマネジメントですが、従来の施設管理とは何が違うのでしょうか。
従来の施設管理と同じようなものだろうと考えている方も少なくありません。しかし、ファシリティマネジメントと従来の施設管理にはそれぞれの特徴によって大きな違いがあったのです。

とらえ方の違い

ファシリティマネジメントには、複数の意味が込められています。
企業の経営資源となるのは人材や資金、情報、物(ファシリティ)が基本的です。
そのため、ファシリティは業界で「第4の経営資源」と言われているほど、重要なものです。
ファシリティを総合的かつ戦略的に活用することは、多くの企業にとって重大なテーマともなります。
「施設管理」という言葉が単に施設を管理すること、たとえばメンテナンスや入居者の募集、集計などを指す反面、ファシリティはビジネスの世界において「企業や団体の形に関わる全ての設備や機器」という意味が込められています。
具体的には建物や施設、設備だけではなく、それらすべてを形成する総合的な環境のことです。
言葉で聞くととても難しいように聞こえるかもしれませんが、施設管理は建物を、ファシリティマネジメントでは建物だけではなく空間や経営戦略を含めて総合的に管理すると考えると、イメージしやすいでしょう。

従来の施設管理との違いは?

性質と目的の違い

施設管理とファシリティマネジメントには性質や目的にも違いがあります。
従来の施設管理の性質は「施設」単体の管理となり、その目的は施設を維持と保全することでした。
一方で、ファシリティマネジメントの性質は「施設経営・戦略」の管理となり、その目的は施設や資産を最適化することにあります。
ファシリティマネジメントでは建物だけではなく、その先も見通しているのが特徴です。

基準・対象の違い

次に基準と対象の違いについて見ていきましょう。
従来の施設管理では対象は「施設」そのもの、基準は「現状」とされていました。
一方で、ファシリティマネジメントの対象は「全固定資産」となり、基準は「ライフサイクル・将来まで」とされています。現在の状況だけではなく、未来まで考えて管理しているのが特徴です。

担当組織や関連知識の違い

次に、担当組織や関連知識の違いについて見ていきましょう。
従来の施設管理では担当組織となるのが「総務・施設」などでした。関連知識や技術においては建築や不動産、設備機器の知識が必要だったのです。
一方、ファシリティマネジメントでは、担当組織は「部分横断的」で、関連知識や技術は建築・不動産・財務・経営・情報・環境・心理・人間工学など、さまざまなものがあります。
施設や資産を最適化し、将来のことまで見通しながら管理することになるので、より多くの知識が必要になります。
ただ単に施設の管理をしているわけではなく、将来のことを見通した上での経営が必要になるので、建築や不動産に関する知識だけでは補っていけません。
施設や資産を最適化するためにも、金銭面的な知識はもちろんのこと、その場の環境や心理、人間工学などの知識も必要になってくるのです。

ファシリティマネジメントがもたらす経営的な効果は?

ここまでファシリティマネジメントについて詳しく解説していきましたが、具体的にどのような効果が期待できるのかと疑問に思っている方も多いでしょう。
ここからは、経営的な効果について見ていきます。

コストの最小化

ファシリティマネジメントを行うことで、これまでのメンテナンス履歴や業者のリスト、契約関係書類などがきれいに整理されるようになります。
情報が整理整頓されることで、売却時の価格上昇が期待できます。

社会や環境問題への効果

ファシリティマネジメントは、社会や環境問題にポジティブな影響を与えることも期待できます。
ファシリティマネジメントを活用すれば、施設の省エネルギー化が望めます。積極的に省エネ化に取り組むことで、現代大きな問題となっている地球環境の問題に対しても効果的な解決手段となることが期待できるでしょう。
最近ではいろいろな業種が地球環境を改善するために、いろいろな解決案に取り組んでいます。
建設業界でもファシリティマネジメントを積極的に取り組むことで、地球環境改善に貢献できるのです。

生産性の最大化

建設にあたって、資源が過不足はしばしば発生します。
しかし、それは資源を無駄にしているのと同じこと。最適ではない使われ方をしている施設や設備を見直すことで、経営資源としての価値を有効に活用できるのです。
同時に生産性も大きく高まっていくでしょう。

柔軟性の高さ

ファシリティマネジメントは柔軟性が高く、企業や事業の展開に最適な提案やサービスを提供することが可能になります。
結果、利用者の生産性が上がり、大きな利益につながることもあります。また、既に活用している利用者にとっても、ファシリティマネジメントで管理方法や施設などを見直しすることで、より利便性や快適性の向上が見込めるのです。

ファシリティマネジメントの導入例

現代では積極的にファシリティマネジメントを推進する企業が増えてきた結果、多くの機関で導入されています。
国土交通相でも「ファシリティマネジメントを実施すべきである」と報告書に記述し、財務省でも新成長戦略の1つとして、未利用国有地などの国有財産の活用を検討しています。
この議論をまとめた報告書にも、ファシリティマネジメントの重要性が訴えられているのです。企業だけではなく、国もファシリティマネジメントに取り組んでいるのです。
また、各自治体でもファシリティマネジメントを導入しているところが増えています。自治体ではまだまだ導入できていないところがあるものの、武雄市や三鷹市では積極的にファシリティマネジメントに取り組んでいます。
たとえば、佐賀県武雄市では「市民の生活をより豊かにする図書館」をコンセプトとして、芦屋書店の運営元と官民連携し、ファシリティの有効活用を実現しています。

ファシリティマネジメントの導入例

一方で、東京都三鷹市では、三鷹市都市再生推進本部内でファシリティマネジメントを積極的に導入しています。ファシリティマネジメント推進チームを設置し、都市再生を行う上で重要な位置づけがされているのです。
また、大手企業でもファシリティマネジメントが積極的に導入されています。キューピー社では分散していたグループ会社19社を拠点統合することにしました。
オフィスと研究施設を断面的に交互に配置することで回遊性を高めたり、各所にコミュニケーションスペースを作ったりと、働く場所を自由に選択できるワークスタイルへの挑戦を実施したのです。
NTTファシリティーズ社では、ICT活用によるワークスタイルの改革や、BIMとFMを結合して施設管理の効率化など、ファシリティマネジメントに積極的に取り組んでいます。
また、位置情報によるユーザ行動分析などの試みも積極的に行っているのが特徴です。
キューピー社やNTTファシリティーズ社など、誰もが1度は耳にしたことがある大手企業でも、現在ファシリティマネジメントに積極的に取り組んでいます。
国や企業、自治体によってファシリティマネジメントの活用方法はさまざまです。
活用方法はいろいろあるので、そのファシリティに応じてマネジメントすることでより高い効果が期待できるようになるでしょう。
ファシリティマネジメントは、これまでの施設管理の考え方とは根本から違う目的を持った、新しい運用手法です。ファシリティマネジメントを導入することで不動産価値を高めるだけではなく、運用者や利用者、環境にまでいろいろなメリットをもたらしてくれるでしょう。
日本にファシリティマネジメントが普及したのは諸外国より遅く、まだまだ導入率は低いのが現状です。しかし、ファシリティマネジメントは現在国や自治体も積極的に導入しているため、今後さまざまな場面で利用されることが期待されます。

まとめ

今回は現代の日本でどんどん取り組みが深まっているファシリティマネジメントについて詳しく解説しました。
国や自治体、大手企業が積極的に取り組んでおり、今後ますますファシリティマネジメントの重要性が日本でも広まっていくでしょう。
導入することで生産性のアップや、コストを最小化するなどの効果が期待できます。建物や施設の価値を最大化させることで、より効率的に運用できるようになりますし、利益も上がっていくでしょう。
また、環境保全につながることもあります。現代の大きな問題となっている環境問題の解決にも協力できるので、企業にとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。

*記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。