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Foresight in sight

ニュースリリース

2010年11月24日

国立情報学研究所、日本ユニシス、凸版印刷、セブン&アイ・ホールディングス
ICTを活用したCO2排出量取引の新たな取引手法の実用化を目指すコンソーシアム
「サプライチェーン環境貢献技術検討協議会」を設立
〜 世界初、個人レベルのCO2排出量取引に関する実証実験を実施 〜

国立情報学研究所(所長:坂内 正夫)、凸版印刷株式会社(代表取締役社長:金子 眞吾 、以下 凸版印刷)、日本ユニシス株式会社(代表取締役社長:籾井 勝人、以下 日本ユニシス)、株式会社セブン&アイ・ホールディングス(代表取締役社長最高執行責任者:村田 紀敏 、以下 セブン&アイ・ホールディングス)は、 ICTを活用したCO2排出量取引(注1)の新たな取引手法の実用化を目指すコンソーシアム「サプライチェーン環境貢献技術検討協議会」を2010年11月24日に設立し、2011年2月に飲料メーカー各社(株式会社ポッカコーポレーション、他)の協力を得て、個人レベルのCO2排出量取引に関する実証実験をイトーヨーカドーの店舗において実施します。これは個人レベルの排出量取引(注2)に関する世界初の実証実験となります。

国立情報学研究所、凸版印刷、日本ユニシスは、総務省・ICTグリーンイノベーション推進事業(注3)の研究開発課題に採択された「ICTを利活用した物流・サプライチェーンにおける温室効果ガス削減技術の研究開発」に関する研究(以下、本研究)に2009年度から共同で取り組んできました。

今、CO2排出権付き商品に注目が集まっていますが、排出権によるカーボンオフセット(注4)は商品の製造者や販売者が代行するために、商品価格に排出権取得費用が含まれていても、購入者は排出権を保持できず、その利用方法、例えば自らの排出のオフセットや他者への寄付などを選ぶこともできませんでした。

本研究では、佐藤一郎(国立情報学研究所)が提案した手法(2008年12月12日、報道発表)をベースに、サプライチェーン全体において排出権付き商品の流通と、それに伴う排出量取引(例えば商品添付した排出権の移転や譲渡)ができる方法を提案し、それを実現するシステムを開発しています。本研究を通じて、排出権を表すICタグ(注5)やバーコード(注6)を商品に貼るだけで排出権付きの商品になります。そして排出権の請求も、従来は煩雑な認証手続きが必須でしたが、ICタグやバーコードを商品から剥がして返すだけで実現できるようにします(図1)。これは個人レベルを想定した簡易な排出量取引としても利用できることから、例えば商品の購入者がその商品に添付された排出権を、寄付先を選んで寄付するなど、主体的な温室効果ガス削減活動につなげることができます。

このたび、本研究のこれまでの成果によりICタグやバーコードによるCO2排出権付き商品および新たな排出量取引システム実装の目途が立ったことから、実際のサプライチェーンにおける実用化に向けた実証実験を行うことを前提に、セブン&アイ・ホールディングスの参画のもと、コンソーシアム「サプライチェーン環境貢献技術検討協議会」を設立します。

同コンソーシアムが2011年2月に実施する実証実験は、本研究の一部(特にコンシューマ向け部分)になり、以下のような特徴があります。図2はその実験概要です。

  1. 商品の製造者と販売者の環境貢献を消費者や地域に還元商品の製造者または販売者の環境貢献を、商品添付の排出権として、サプライチェーンの川下側、例えば消費者に渡るようにし、消費者は地域や学校にその排出権を寄付することによって、地域にその環境貢献を還元できるようにします。
  2. ICタグ(またはバーコード)によるCO2排出権付き商品と排出量取引システムを、実際のサプライチェーンで実装紙製飲料缶「カートカン」(注7)を使った飲料品に、排出権を表すICタグ(またはバーコード)を添付し、商品購入者に対して排出権口座を提供します。購入者は飲料品を購入後に、そのICタグ(またはバーコード)を店頭に返却すると、その排出権が購入者自身の口座に移転されます。
  3. 商品購入者が排出権の使い方を選択可能購入者は自らの口座にある排出権の使い方を選択できます。実験では地域または学校などに排出権を寄付する方法を検討しており、ICタグ(またはバーコード)の回収に関しても地域学校の協力を前提に、排出権を収集・利用する方法を検討しています(ベルマークと類似した方式による回収方法を検討)。
  4. 世界初、個人レベルの排出量取引に関する実証実験を実施現状の排出量取引は煩雑な電子手続きが必要であり、その取引単位も大きいため、参加者は一部の大企業か専門商社(カーボンプロバイダー)に限られ、個人や中小企業が排出量取引をすることは事実上不可能になっています。一方、本研究では、ICタグ(またはバーコード)により小口排出権を表せるようにし、さらに簡単な決済手法を提供しています。本研究の手法により、例えば排出権付き商品の購入を通じて、個人が排出権を貯めることや、ICタグ(またはバーコード)の受け渡しや口座間の移転により排出量取引をすることができます。
    なお海外では個人レベルの排出量取引スキームが提案されていますが、いずれも実証実験までに至っておりません。また、国内では個人レベルの排出量取引に類似した試みがありますが、いずれも擬似的な手法、例えば排出削減への貢献などをポイント化したものであり、排出権を対象としていません。

実証実験における国立情報学研究所、凸版印刷、日本ユニシス、セブン&アイ・ホールディングスの役割は以下のとおりです。

  • 国立情報学研究所は、本研究のベースとなる方法を、共同研究に先立ち、提案しました(2008年11月24日報道発表)。その提案者である佐藤一郎(アーキテクチャ科学研究系教授)は本研究の研究代表者として、全体設計・スキームを担当すると共に、研究全般の統括をしています。

  • 凸版印刷は、実証実験のコーディネート及び排出権取引システムの開発や本実証実験の事務局運営を担当します。
    排出権取引システムは、昨年度の研究成果であるCO2排出量が商品を通じて商品を販売した側から購入した側に移転するシステムをベースにして購入者とのインターフェース部分を拡張します。具体的には、携帯電話などを利用して個人レベルで排出量情報を確認する機能を搭載する予定です。事務局運営では、応募受付から問合わせ対応、排出権償却の手続きまでの情報管理を実現します。

  • 日本ユニシスは、小口化した排出権の口座開設及び口座管理の仕組みの設計を担当します。
    口座管理の仕組みにおいては、昨年度の研究成果において現行の金融システムとの整合性を勘案し、排出権の小口化と資金決済を行うのがどこか、今回の実証実験でICタグ(またはバーコード)を管理する役割と排出権の第一次取得者の役割をどの企業・組織がどのように分担するか、という点を最大の課題と捉えています。この課題の解決策を実証するため、(1)排出権の移転、(2)kg、g 単位の小口化対応、(3)簡易なカーボンオフセット方法の提供、(4)認証手続きの最小化などの仕組みを実現します。

  • セブン&アイ・ホールディングスは、実証実験のためのイトーヨーカドー店舗を提供します。環境付加価値の有るカートカン商品にICタグ(またはバーコード)を添付して販売し、お客様からの返却を承ります。また、本コンソーシアムへの参画を通して、お客様・地域・メーカー・店舗が連携したサプライチェーン全体での地球温暖化防止につながる環境貢献技術の開発に注力してまいります。

なお、今回の実証実験は消費者向け商品を対象としますが、CO2排出量取引手法はサプライチェーン全体においても適用可能な方式となっています。本研究自体は排出権をICタグだけでなくバーコードでも扱うことができます。このため商品の形状や排出権量に応じて使い分けることになります。なお、今回の実証実験では、対象商品(カートカン)の形状等を考慮し、バーコードを貼ることを想定しています。実証実験では、商品に添付する排出権は国内森林資源によるCO2吸収による排出権(J-VER)を想定しており、実験期間後は無効化することで、CO2排出削減に帰するものとします。


ICタグまたはバーコードによるカーボンオフセット付き商品と排出量取引

図1:ICタグまたはバーコードによるカーボンオフセット付き商品と排出量取引


実証実験イメージ

図2:実証実験イメージ

以上

注記

注1:排出量取引(Emission Trading)、排出権(Carbon Credit)、排出枠(Emission Allowance)
ベースラインクレジット方式とキャップアンドトレード方式に大別されます。前者は何らかのCO2排出削減活動に支援をして、その削減量の一部を排出権として売買できる経済価値として手に入れます。一方、後者では企業などは許容排出量を定め、それよりも実際の排出量が少なければその差分を排出枠として、逆に実際の排出が許容排出量よりも多くなった企業などに転売することを許します。なお、本研究はベースラインクレジット方式による排出権とキャップアンドトレード方式による排出枠の両方を扱うことができます。
注2:個人レベル排出量取引(Personal Carbon Trading)
従来、企業向けであった排出量取引を個人レベルでも扱えるように小口化・簡単化したもの。本研究は商品添付の排出権及び小口排出量取引を対象にしています。なお、英国下院議会などで議論されている個人レベル排出枠(Personal Carbon Allowance)、つまり個人に所定の排出枠を与え、それよりも実際の排出量が少なければ差分の転売を許し、逆に多くなってしまった場合はその分の排出枠の購入を求める方法を、本研究は想定するものではありませんが、同方法の基本メカニズムとしても応用することもできます。
注3:ICTグリーンイノベーション推進事業
平成21年度の事業名は「地球温暖化対策ICTイノベーション推進事業(PREDICT)」。これは、総務省によるを目的とした競争的資金制度です。国際的に喫緊の課題である地球温暖化対策に資するために、CO2排出削減省エネルギー化に貢献する情報通信技術(ICT)分野のイノベーションを創出し、研究開発を促進していくことを目的としています。
平成21年度から実施する研究開発課題については、2009年2月23日から3月19日まで公募が行われ、大学、民間企業、公的研究機関等に所属する研究者から合計27件の応募がありました。審査の結果、7月23日に新規採択課題5件が決定されました。
注4:カーボンオフセット
事業活動や日常生活においてCO2など温室効果ガスの排出抑制に努め、抑制しきれない排出量分について、温室効果ガスの削減事業・活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせる(オフセット・相殺する)という考え方。
注5:ICタグ
リーダーと呼ばれる電波送受信機からICタグに電波を照射して、その電波により生み出される微量な電力を利用して、ICタグに予め記録されている識別子を返信したり、ICタグ上のデータを読み書きできるようにします。
注6:バーコード
数字や記号列を縞模様状などの模様に変換し、その模様を読み取ることで元の数字や記号列を読み取れるようにします。
注7:カートカン
カートカンは凸版印刷が1996年に開発した環境配慮型の紙製飲料缶です。原紙に間伐材を含む国産材を30%以上使用しています。混みあった植林を間引く"間伐"は、残った木々の成長を促進。カートカンの利用により、国内の間伐が進み、CO2吸収効率の高い健全な森林が育つため、地球温暖化防止に繋がります。カートカンは、全国森林組合連合会が認定する「間伐材マーク」を付けることができる、唯一の紙製飲料缶です。
商標、登録商標
  • 記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。
関連資料
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